
前の職場に、入社1年目なのになぜか上層部から異常に信頼されている新人がいた。会議に同席すると、なぜか毎回こう聞かれる。「例の件、どう思う?」新人なのに、意見を求められる空気が最初からできていた。正直、私はずっと不思議だった。
ある日、雑談の中でその理由を本人がぽつりと話してくれた。 その内容が強すぎて思わず黙ってしまった。彼は何かを改善したいと思っても、絶対にこうは言わなかった。「◯◯って非効率だと思うんです」「なんかおかしい気がして」こういう主観の意見は一切封じている、と。
代わりに彼がやっていたのは、とにかく数字を集めること だった。
・その作業は何件発生しているのか
・どれくらい時間を奪っているのか
・誰がどの工程で詰まるのか
・どの部分で待ち時間が生まれるのか
まるで現場を歩き回るカウンターみたいに、淡々と数えていたらしい。そして上司に相談するときは、意見ではなく事実だけを持っていく。「◯◯は非効率です」ではなく、「◯◯の作業、1週間で62回発生していました。そのうち◯割が待ち時間でした」たったこれだけで、会議室の空気がガラッと変わる。
上司は「意見」は疑う。でも「数字」は疑えない。彼は笑いながらこう言った。「新人の主観は簡単に流されます。でも数字だけは流されないんです」その一言に、背中がじんわりした。彼が上層部に可愛がられた理由は、態度が大人びていたからでも、愛想が良かったからでもない。「事実を拾ってくる人」だったからだ。シンプルだけど、誰もやっていない強い方法。
思い返せば、会議で通る提案って
・意見ではなく数字がある
・感情ではなく構造がある
・やったではなく測ったがある
この3つが揃っていることが多い。新人でも通るのは、才能でも経験でもなく、ただ、「数字を持って話せるかどうか」それだけなんだと思う。

