落合博満だけが大魔神を攻略できた本当の理由

「打てたのは技術じゃない」
プロ野球の歴史を振り返っても、「打てる気がしない投手」は何人かいる。
その中でも別格だったのが、横浜ベイスターズの守護神・佐々木主浩だ。
当時を知るファンなら覚えているだろう。
9回になる。
大魔神が出てくる。
そして試合が終わる。
それが当たり前だった。
1998年には防御率0.64、45セーブ。
数字だけ見ても異常だが、本当に恐ろしかったのは数字ではない。
打者たちが「分かっていても打てなかった」という事実だ。
伝家の宝刀フォーク。
落ちると分かっている。
ボールになると分かっている。
それでも振ってしまう。
後にメジャーリーグで活躍した松井秀喜でさえ、「落ちると分かっていても体が反応してしまう」と語っている。
野球というスポーツは面白い。
頭では理解できても、体が言うことを聞かない瞬間がある。
佐々木のフォークは、まさにそんな球だった。
ところが。
そんな大魔神を相手に、なぜか異常な数字を残している男がいた。
落合博満である。
通算対戦成績は36打数16安打。
打率.444。
さらに4本塁打。
そして、佐々木から唯一サヨナラホームランを放った打者でもある。
正直、この数字だけ見るとバグである。
他の強打者たちが苦しんでいた時代に、一人だけ違うゲームをやっている。
では落合は何をしていたのか。
超人的な動体視力か。
特殊な打撃技術か。
実は違う。
落合の答えは驚くほどシンプルだった。
「フォークを打とうとしない」
これである。
普通の打者はフォークをどう打つか考える。
落合は最初から違った。
そもそも打つ気がなかった。
彼は気付いていた。
佐々木のフォークの大半は最終的にボールになる。
ならば振る必要がない。
ただ待てばいい。
言葉にすると簡単だ。
だが実際にはほぼ不可能である。
なぜなら、打席に立つと人間は反応してしまうからだ。
目の前でボールが来る。
振らなければならない。
打たなければならない。
その本能との戦いになる。
私はここに落合博満という打者の本質があると思う。
彼は技術の人と思われがちだ。
もちろん技術も超一流だった。
しかし本当に恐ろしかったのは頭脳だった。
落合は「打席の中で感情を消せる打者」だったのである。
振りたい。
打ちたい。
決めたい。
そういう欲を全部消していた。
だからこそ、相手投手にプレッシャーが返っていく。
「この打者、振らないぞ」
「ストライクを取らなきゃいけない」
そう思った瞬間、追い込まれるのは打者ではなく投手になる。
そして佐々木が投じた、たった1球。
ほんの少し高く浮いた失投。
落合はその1球だけを待っていた。
そして逃さなかった。
野球ファンはよく、
「落合の打撃理論は難しすぎる」
と言う。
だが今回の話を聞くと分かる。
落合の凄さは理論ではない。
理論を最後まで貫く精神力だ。
誰もが分かっていた。
フォークを振らなければいい。
でも誰もできなかった。
ただ一人を除いて。
だから落合博満は天才だったのではない。
天才でありながら、誰よりも冷静だったのである。
そしてそれこそが、大魔神・佐々木主浩最大の天敵になれた理由だった。

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