相変わらずお見事な考察。⇒こちら
――10月16日、イスラエルは100機を越える戦闘機を動員して、イランに対して空爆しました。イスラエル空軍はF35Aステルス戦闘機で、イラン防空レーダーと地対空ミサイル陣地を攻撃。続いて、イラン国境手前数十kmから、F15E戦闘爆撃機などで各種長距離ミサイルを発射。地対空ミサイル発射施設、イラン空軍基地、ミサイル製造施設などの軍事目標を数回に分けて精密爆撃をしました。イランはまた報復攻撃をしますか?
佐藤 イランに対してはこれで一応、ケリはつきましたね。イスラエルは軍事目標だけを攻撃しました。だから、これでゲームのルールは確立したわけです。
――これでお互いにやるのは……。
佐藤 軍事目標でしかやらない。そして、これ以上のことはやらないということです。その範囲での攻撃は今後もあるでしょう。イランの大人の対応で、いまの国際社会の治安は成り立っているというわけです。
――イランが大人になったのですか?
佐藤 要するに、イランの”サウジ化”です。
――サウジ化!? それはいったいどういうことですか?
佐藤 サウジアラビアも本来の国家の理念はワッハービズムです。イスラム教スンニ派の一派・ワッハーブ派を国教としています。つまり、ワッハーブの世界を拡げるのがサウジの建前です。
それは、ビン・ラディン、「イスラム国」とも考え方は変わりません。しかし、サウジは国内ではイスラム統治をしていますが、国外にはそれを要求しません。
――はい、サウジは国内のみイスラムであります。
佐藤 そして、イランもそれと同じく、イスラム革命を輸出しない形になりつつあります。だから、ハマス、ヒズボラ、フーシ派は事実上の切り捨てです。そうすれば、安定するわけですよ。
――それって、映画『アウトレイジ』そのままじゃないですか。デカいヤクザ組織に切り捨てられた弱小組の組長・大友(北野武)が、暴れ回るストーリーと同じです。
佐藤 本当にそういう感じなんですよ。
――これ、イスラエルとイランがどこかで和平会議なんかしていたら、大友の名セリフ、「てめえ、破門しといて遊びにくんのか、この野郎。ぶち殺すぞコラァ!!」ってなるじゃないですか。
佐藤 それはやっぱり、ある意味、ひとつの国家が大人になってきたということです。分かりやすいですよね。
――いや、しかしその……。
佐藤 イランが大人の対応をしているから、イスラエルの行動の一定の範囲に収まっているわけです。
――そりゃ、国家は大人になれるかもしれませんが、それをケツ持ちにしていた各武装組織、ハマス、ヒズボラ、フーシ派はどうなるんですか?
切り捨てられて暴れまくろうとするも、イランというケツ持ちからミサイル、ロケット弾、各種火器、そして資金。これが断たれれば何もできなくなる……。
佐藤 本当にひどい状態にされています。客観的に言って、こんなひどい話はないと思います。「ヤレ!!」と言われて突っ込んだのに、「何ですか、これは?」という話だと思いませんか?
――武装組織たちの声が聞こえて来ますよ。「オヤジ(イラン)、どうしてもっとミサイルを撃ち込んでくれねえんだよ。イスラエルの玉(首脳陣)を取りにいってねえじゃねえかよ。俺ら、ネタニヤフの家に無人機をぶち込んで、殺そうとしたんだぜ。どうしてくれんだ? 俺たち、今、ボロボロだぜ」なんて言ってるみたいです。
佐藤 映画『仁義なき戦い』の山守義雄(金子信雄)が、「ワシは知らんかに、なんとかせいや」と言いそうな雰囲気ですよね。
――その山守義雄の名セリフに「そがな昔のこと、誰が知るかい」と言うのがあります。すると、大手の組が弱小組を脅して、言う事を聞かないと潰しに入っている、ヤクザ映画にありそうな話が現実の戦争で起きているわけですね。
佐藤 そういうことです。
――『アウトレイジ』で三浦友和が演じる加藤は、若頭から出世して関東ヤクザの大手の組『山王会』の会長になりますが、こんな名セリフがあります。「いいか、お前、誤解されるようなことをするなよ。兄弟ってものも大事だけど、親子はもっと大事だからよ」。ここで、ハマス、ヒズボラ、フーシ派は、兄弟分になりますが、イランとの関係は親子になります。
佐藤 そうですね。
――すると、ハマスはもうダメかもしれない。ヒズボラは、どうやってイスラエルと手を打つつもりですか?
佐藤 「イスラエルに刃向かわなければ生き残らせてやる」ということになるでしょうね。ただ、そのためには「疑わしきは殺す」という話になってしまいます。
――『アウトレイジ』シリーズの最後に、大友は「もういいよ」と言って拳銃で自分の頭を吹飛ばしますが、ビスボラの場合は自殺ではなく、自爆テロ攻撃が多発しそうです。
佐藤 その通りだと思います。
――フーシ派はイスラエルから離れているから、「わかりました、お疲れ様でした。もう、ミサイル撃ちません」で終わりですよね。
佐藤 それで、サウジアラビアが許してくれるかどうかです。
――あ、もうひとつの巨大組織・サウジがいましたね。フーシ派はサウジによって皆殺しになるんですか?
佐藤 皆殺しにはならなくても、大規模な武力行使がとれなくなるくらい弱体化されるでしょう。
――すると、以前言われていた「イスラエルがヒズボラのいるレバノン南部に攻め入ったのに、なぜイランが出てこないのか?」という謎は解けましたか?
佐藤 謎解きはほぼ終りました。結局、イスラエルはイランの地下核兵器工場を全て把握して押さえていたんです。
そして、そのことをイランに伝え、実際にヒズボラのトップだったナスララ師がいた地下20~30mの地下壕に、1トン爆弾を80発以上落としました。
つまり、地下壕を壊して殺せることを実証して、「いつでも破壊できるんだ」と示したわけです。なので、それがイランがレバノンに来ない根拠になっていました。
――「トップの玉はいつでも取れるんやぞ」と言ったも同然ですね。
佐藤 だから、イランはそれに対して合理的に対応している、ということです。
――イスラエルとイランは手打ちしたと。
佐藤 とりあえず手打ちですね。今後何があるにしてもゲームのルールは決まっているから、その枠内でやりますよ、となります。
――しかし、映画『アウトレイジ』から今回の戦争の謎が解けるとは……。
佐藤 だから怖いんですよ。ひとつの教訓としては、やはり人に頼って戦争したらダメだということです。戦争するならば自力でやらないと。
次回へ続く。