数学力の低下…考えさせない教育がもたらす衝撃の現実…やり方の丸暗記を「理解の学習に変える」数学の考え方、その中身

https://gendai.media/articles/-/167933

わからない理由がわからない…近年、数学力の顕著な低下や、算数・数学嫌いの方の増加が指摘されています。いったいなぜでしょうか。

「やり方」の暗記に偏った教育の影響で、試行錯誤を通じた理解が欠如したり、公式の暗記に頼る傾向が強まった結果、「問題を解決しようとする能力」が低下しているのではないか、そう指摘するのが、45年以上にわたって数学教育に携わってきた数学者の芳沢光雄さんです。

「数学は“13個の考え方”で理解できる!」として、13個の「発見的問題解決法」を、パズル問題・あみだくじ・じゃんけんなどの豊富な実例をもとに、その思考プロセスを解説。さらに、算数から中学・高校・大学への数学へと段階的に発展させていきながら、さまざまな学問分野への応用までを解説した『数学の考え方 発見的問題解決法ーーひらめきを生む思考へ』が注目されています。

「わからない理由がわからない」に答える、この画期的な「数学読本」から、その幕開けとなる巻頭言をご紹介しましょう。

*本記事は、『数学の考え方 発見的問題解決法ーーひらめきを生む思考へ』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

「ひらめき」の裏側にあるもの

たまに、学生同士の会話の中で「あいつは数学の問題を見ると、パッと解法がひらめくような才能の持ち主だよ」という話が出ることがある。

もちろん、そのような才能はあるのだろうが、多くの場合は、見えないところでの数多くの試行錯誤を経(へ)て、そのような“才能”を磨いているのではないだろうか。同じことは、優れたスポーツ選手にもいえるだろう。

筆者は専任教員として5つの大学、非常勤講師として5つの大学に勤務し、定年退職となった2023年3月末まで45年間にわたって、のべ1万5000人の学生に授業をしてきた(文系・理系ほぼ半々)。また、1990年代半ばから、小・中・高校合わせて1万5000人を対象として出前授業も行ってきた。

その長い年月を振り返ると、大きな変化を感じることがある。それは「試行錯誤」の問題に取り組む学生の姿である。

数学学習書には、間違った解答は掲載されない!?

学校教育での数学の問題において、生徒が解けなかった問題でも、それに対してどのようにチャレンジしたのかということは、試験で部分点を期待する答案の記述を別にすると、解答用紙に書くことはないだろう。

まして、学習参考書では、問題に関してスマートな解法は記述しても、「~という方法で解けると思ったが、うまくいかなかった」ということは述べないだろう。

それは数学の研究の世界でも同じで、「~という定理が証明されたので、その証明を以下述べる」というスタイルの論文が普通であって、「自分は~という定理が成り立つと思って証明を試みたが、残念ながらできなかった」という成功しなかった内容については、普通は論文として書くことはない。

もっとも、次のような内容ならば論文に書くことはあるだろう。

「~という分野の成果を用いると、……という定理は以下のように証明できたので、それを記述する」と述べてから、その論文の最後に「~という分野の成果を用いない証明は、いろいろ試みたがうまくいかなかった」と追記することである。

一方、数学以外の自然科学系の分野では、“失敗”も立派な論文になり得るのである。

たとえば、動物や植物の病気に関する分野で「~病を治す効果があると予想して、……という薬を試してみたが、効果は見られなかった」というデータも添えた結果は役に立つだろう。ようするに数学以外の自然科学の分野では、失敗も含めて「試行錯誤」した内容を公表することは、役立つことが多々ある。

このように数学という科学は、他の自然科学と比べて「試行錯誤」の面があまり表にあらわれない分野ではないかと考える。

数学は、他の自然科学と比べて「試行錯誤」の面があまり表にあらわれない分野、と考えることもできる。

時代とともに変わる、試験監督中の光景

解けなかった問題が解決に至った過程を振り返ると、目に見えないところではさまざまな試行錯誤があるのが普通である。

昔は、授業中に誰でもチャレンジできる試行錯誤の問題を出すと、全員が楽しく取り組む姿をよく見たものである。あまりにも多くの時間を使うのもいかがなものかと思って解法を述べようとすると、「先生、いま考えているから、答えは言わないでください」と怒られたことが何度もあった。

それが、近年になると、試行錯誤の問題では、すぐに「この問題の“やり方”を教えてください」という質問が寄せられるようになった。

同じ傾向は、数学の入学試験の監督をしてきたことからも感じる。昔は記述式試験が中心であったこともあるが、ほぼ全員が終了時間ギリギリまで答案に向かっていた姿が目に浮かぶ。

それが、大学入試センター試験(現在の大学入学共通テスト)のようなマークシート式試験が中心になったこともあるが、「やり方」を暗記した問題はすぐに処理して、「やり方」を思いつかない問題は考えることなく飛ばしてしまう姿を多く見るようになった。諦めの早い受験生は机の上で静かに寝ていることも多く、まるで暗記科目の試験監督をしているような思いをした。

マークシート式試験が中心になったことも影響して、数学が暗記科目になってしまったような印象を受けた。

露呈した数学力の低下

そのような傾向は、小中学校での算数や数学でも顕著に見受けられるようになった。とくに「割合%」に関しては、「やり方」中心の暗記の学びが深刻な弊害をもたらしている。

たとえば、平成24(2012)年度全国学力・学習状況調査の「算数A3(1)」(小学6年対象)では、次の問題が出題された。

赤いテープと白いテープの長さについて、

「赤いテープの長さは120cmです」

「赤いテープの長さは、白いテープの長さの0.6倍です」

ということがわかっているという前提で、4つの図から適当なものを1つ選ばせる選択問題。

「赤いテープの長さは120cmです」「赤いテープの長さは、白いテープの長さの0.6倍です」正しいのは、どれでしょうか(平成24年度全国学力・学習状況調査・算数A3(1)の試験問題をもとに作図)© 現代ビジネス

誤答の「3」(白いテープの長さは赤いテープの長さの0.6倍になっている図)を選択した児童が50.9%もいる半面、正解の「4」を選択した児童は34.3%しかいなかったのである。

また、平成24年度の同調査から加わった理科の中学分野(中学3年対象)では、「10%の食塩水を1000グラムつくるのに必要な食塩と水の質量をそれぞれ求める」問題が出題された。

答えとなる「食塩100グラム」「水900グラム」と正しく答えられたのは52.0%に過ぎなかった。

じつは、昭和58(1983)年に中学3年を対象にした全国規模の学力テストでも、食塩水を1000グラムではなく100グラムにしたほぼ同一の問題が出題されているが、このときの正解率は69.8%だったのである。

なぜ、学力低下が起きているのか?

「割合%」の問題が深刻になってきた背景を考えると、「比べられる量」「もとにする量」「割合」それぞれの意味を理解させる前から、それらの関係式を暗記させる教育が蔓延(はびこ)ってきたことが挙げられる。

たとえば、「は(速さ)・じ(時間)・き(距離)」式と同じように、円の中にそれぞれの先頭の文字「く」「も」「わ」を書く奇妙な“公式”すらある。

その結果、「割合%」の問題は以下の表現がどれも同じ意味であることもあって、生徒の頭の中は混乱するようである。

  • ~の…に対する割合は□%
  • …に対する~の割合は□%
  • …の□%は~
  • ~は…の□%

「く・も・わ」や「は・じ・き」といった暗記を強いる奇妙な公式は、児童・生徒の頭をかえって混乱させる illustration by BlueFruit & tomoe© 現代ビジネス

「試行錯誤を経て」創造する

2010年に刊行した拙著『新体系・高校数学の教科書(上・下)』は、数学I、II、III、A、B、Cという現行教科書のアラカルト方式でなく、1960年代以降の高校数学教科書で扱われたほとんどすべての項目を大きな一本の体系として捉え、日常生活と結び付く“生きた題材”を多く取り入れて執筆したものである。

その書は現在でも、社会人、大学生、高校生など幅広い人たちに読んでいただいている。

筆者としては、いわゆる普通の学習参考書のような演習書の執筆を考えたこともあるが、前述の件に関する危機感が頭から離れなかった。

とくに、現在は「新しいものを『試行錯誤を経て』創造する時代」であると考える。

そこで、新たな数学学習の本を構想するなかで「発見的問題解決法」という考えに至った次第である。

「発見的問題解決法」と13通りの考え方

ここで、「発見的問題解決法」について紹介しよう。これは「やり方」の暗記に頼る学びとは違うもので、数学における問題の解法に至るヒントを、どのようにして得たかをまとめたものである。

人それぞれによってその分類は異なるが、筆者としては、次の13個を考えている。

  • 帰納的な発想を用いる
  • 定義や基礎に戻る
  • 背理法を用いる
  • 条件を使いこなしているか
  • 図を用いて考える
  • 逆向きに考える
  • 一般化して考える
  • 特殊化して考える
  • 類推する
  • 兆候から見通す
  • 効果的な記号を使う
  • 対称性を利用する
  • 見直しの勧め

上の13個は、自らの研究教育を振り返ってまとめたものであり、とくに「見直しの勧め」はほかでは見かけないかもしれない。もちろん、それらはいくつか重複することもある。

見直しには、単に間違いがないかを確認する以外の効用もある 。

筆者はかつて、いわゆるガロア理論を通して上記13個の発見的問題解決法を学ぶことができることを示したことがある(「数学セミナー」2023年6月号「ガロア理論から学ぶ発見的問題解決法」を参照)。

数学の考え方から、その応用へ!

この「13個の考え方」は、数学だけでなく、もっと幅広い分野に応用することも期待したい。少なくとも、「やり方」の暗記だけの学習法を見直し、「理解」の学習法に変えていくきっかけにはなるだろう。

本書『数学の考え方』では、前述の13個の考え方による「発見的問題解決法」を1章ずつ取り上げながら、その考え方、そしてそれらがどのように使われるのかを実践的に紹介していく。

これらは数学はもとより、さまざまな問題に取り組むとき、解決へとつながる道筋を模索するうえで参考になるものと信ずる。

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